冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 翌朝、食事を済ませると早速デートに出かける準備をした。
 先日、一矢さんがプレゼントしてくれたクリーム色のワンピースに身を包む。冬の訪れを感じさせるこの季節だ。上には一緒に贈られたコートを羽織った。どちらも友人である阿久津さんの会社の扱っているものだと聞いている。

 温かくて気心地が良く、私にも高級品だとすぐにわかって最初は遠慮をしていた。けれど、そうすればするほど一矢さんは切なげな表情になるばかり。思い切って受け入れたところ途端に表情を綻ばせた彼を見て、最初からそうすべきだったと少しだけ後悔していた。

「よく似合ってる」

 一矢さんに褒められれば、自然と笑みが浮かんでくる。 
 違う日に買ってもらったブーツを履いて、寒空の下に繰り出した。

 平日の今日は水族館も思ったほど人がおらず、ゆっくりと楽しむことができる。
 薄暗い館内では足下がおぼつかないからと、一矢さんが手をつないでくれた。今日は夫婦というよりも、まるで恋人のような気分だ。

「あれはなに?」
「綺麗……」

 初めて目にする物珍しい光景に思わずはしゃぐ私に、一矢さんは嫌な顔しないで付き合ってくれる。

「はあ。楽しかった」

 非日常的な空間と、一矢さんと一緒にいられる時間の長さに、自然と私の口調も砕けたものになっていく。

「また来ような」

「はい!」

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