冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 その後、一矢さんはあらかじめディナーを予約していたらしく、ホテルの最上階の豪華なレストランへ連れていかれた。
 不慣れなのとあまりの場違いさに思わず足がすくみそうになってしまったけど、彼がずっと私の背に手を添えて微笑みかけてくれるから、緊張は少しずつ解れていく。

「優、これを」

 デザートが運ばれてきた頃、ふたりきりになった空間で一矢さんはおもむろに立ち上がって近寄ると、私の隣で跪いて手にしていた小ぶりの箱を開けた。

「優、俺のもとに嫁いできてくれてありがとう。これからもずっと一緒にいて欲しい」

 そのまますっと私の左手にはめられたのは、シンプルな結婚指輪だった。派手さのないデザインだが、どこかスタイリッシュなのは一矢さんならではのセンスなのだろう。

 予想外のサプライズに、思わず涙がこぼれてしまう。声にならない思いを伝えるように何度も何度も頷き返せば、一矢さんは私が落ち着くまでずっと抱きしめていてくれた。

「本当なら、婚約指輪を用意して結婚して欲しいと申し込むところだが……」と、照れ臭そうに言う一矢さんがますます愛おしくなってくる。
 どうやら彼は、婚約指輪を送らなかったと後悔しているようだが、私にはこの指輪があれば十分だ。
 
 勇気を出して「もう十分受け取っているから、婚約指輪の分は未来の家族に……」と、彼が母へ向けたのと同じ発言をすれば、「そっちも頑張らないとな」と返り討ちにされて、ひとり身もだえていた。

 もちろん、彼の左手にもおそろいのリングがはめられている。それを見るたびに、どこかふわふわとした気持ちになってしまう。

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