冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
『優、出るのが遅いわ。ちょっと用があるから開けなさいよ』

 画面に映し出されたのは、昨日久しぶりに対面した陽だった。相変わらずいら立っているらしく、その整った顔は不機嫌そうに歪められている。

「な、なんの用で……」

『とにかく、今すぐ開けなさいよ。話はそれからよ』

 その声を聞くだけで、動機が激しくなってくる。
 インターフォン越しに要件を話すつもりはないようで、ひたすら開錠を要求してくるばかり。

 どうしよう……。

 彼女をここへ入れたくない。やっと得られた安寧の場所を汚されてしまうようで、考えただけでも怖くなってくる。

『ちょっと、優! 聞いているの!?』

 陽の焦れた声に、ビクッと肩が跳ねた。

『いい加減に開けなさいよ。愛人の子のくせに、生意気よ!』

 けれど、やっぱり私はまだ強くなり切れていなかった。開けてはだめだと思っているのに、最後通告のようなそのひと言の威力は、自分が思った以上に大きかった。


〝愛人の子のくせに〟


 このマンションの周りは、それなりに人通りの多いエリアだ。エントランスも、住人の出入りがある。だけどもちろん、圧倒的に知らない人ばかりだ。そんな場で〝愛人の子〟と他人に聞かれても、痛くもかゆくもないはずだった。

 でも、いくらそう頭でわかっていても、どうしても耐えられなかった。
 ここでもまたそんな目で見られ続けるのかと被害妄想に囚われて、思わず陽を通してしまった。

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