冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「ふん。愛人の子のくせに、こんな贅沢なところに住んでるなんて、なに様のつもりよ」

 強引に押し入ってリビングにたどり着くと、陽は高圧的にそう言い放った。

「だいたいねえ、開けるのが遅いのよ」

 彼女から発せられる言葉はなんとも高飛車なものばかりで、私を委縮させるには十分すぎた。

「ご、ごめんなさい」

「ああ、やだやだ。辛気臭い」

 彼女は、私がなにを言っても気に食わないのだろう。まるで汚いものでも見るような視線で、忌々しげに睨みつけられれば、恐怖で体が震えてしまう。

「あんたも知ってるんでしょ? 本当は一矢さんと私が結婚するはずだったって」

 陽の口から一矢さんの名前が飛び出せば、不安な気持ちがあふれ出てしまいそうになる。

「で、ですが、お嬢様は好きな方を追いかけられたと……」

「うるさい!」

 大きな声で言い返されて、体がビクッとした。

「あんたにとやかく言われる筋合いはないわ」

 そんなふうに言われたら、私にはもうなにも言えなくなってしまう。俯いて、口をつぐむしかなくなった。

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