冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「どう? 私の結婚相手を横から奪って過ごした日々は。夫婦ごっこは楽しかった?」

 ニヤリと嫌な笑みを向けられた。

「夫婦、ごっこ……」

 心の中には〝ごっこ〟なんかじゃないと、否定する言葉が次々と飛び交っているというのに、弱い私にはそれを声に出せない。体を縮こませて必死に耐えるしかできない自分が、心底嫌になってくる。

「ねえ、優。おかしな話だと思わない? 愛人の子でしかないあんたが、私が結婚する予定だった人と一緒になって幸せに暮らしているなんて」

 この結婚は、父から命じられたのが発端だ。おかしいところなんて、なにひとつない。

「あんたはもう、夫婦ごっこを十分楽しんだでしょ? そろそろ返してもらおうかしら」

「なに、を……」

「はあ」とため息を吐いた陽は、まるで残念なものを見るような哀れみの視線を私に向けてきた。

「緒方一矢に決まってるでしょ。大体、大病院の跡取り息子の嫁なんて、優には分不相応なのよ。そんなの、言われなくてもわかってるでしょ? ごっこ遊びは今日でおしまいよ。一矢さんは私がもらってあげるから。優、あんたは今すぐここを出ていきなさいよ。」

「あっ」

 体をドンっと押されてふらついてしまう。
 けれどこの幸せだけは譲りたくないと、彼女に初めての抵抗をした。

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