冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
『都合のいいことに、お前たちは年恰好がほぼ同じ。おまけに、三橋の人間との縁談という約束だ。それが陽であろうと優であろうとかまわんだろう』

 あんまりな言い草に怒った母は、必死に抵抗してくれた。
 けれど適うわけがない。せめて肩代わりしてもらった治療費を返せていたら違ったのかもしれないが、祖母は今現在も通院している身だ。我が家の貯金額は知れていた。

『いいか、優。余計なことはいっさい言うな』

『余計なこと、ですか』

『お前が京子の実子じゃないことだ。いろいろと探られても、絶対にはぐらかしておけ。あとは、三橋の名に恥じぬよう、とにかく相手に尽くせ』

 それでは相手に対してあまりにも不誠実ではないだろうか。

『明後日の日曜、ホテル・パレスで顔合わせの予定だ。事前に入って、着付けとヘアメイクをしてもらうよう手配しておく。いいか、その場には三橋側として私が付き添う。なにも言うんじゃないぞ』

 それだけ言い残すと、正信はさっさと帰っていった。

『優……ごめんね』

 三橋の人間と関わって、母は幾度となく涙を流してきた。苦しげな声音で私に謝り続ける母の姿は、正直見ていて辛い。

『大丈夫だよ、お母さん。私は大丈夫』

 気休めの言葉でも、言わずにはいられなかった。

『お医者さんだなんて、ずいぶん立派なお相手だね。人の命を救うお仕事をされてるんだもの。きっと良い人に違いないわ』

 母ひとりを残していく不安はもちろんあるが、彼女も仕事をしている。私が二十歳を過ぎた頃には、父からの援助は家賃のみになっていたが、自分だけなら生活に困りはしないだろう。

『優……』

 異性と付き合う経験なんて、これまで一度もなかった。それがいきなり結婚なんて言われても戸惑いしかない。
 でも、とにかく母を少しでも安心させたかった。

『私、きっと幸せになれるわ』

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