冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 一矢さんは無駄なものを増やさない人なのだろう。リビングを見る限り、必要なものしかないという印象を受ける。そのため、すっきりと片付いて見える。

 けれど、よくよく見てみればどうしても掃除が間に合っていない部分がある。普通でも、大掃除のときぐらいにしか手をつけない程度だが。
 普段はできないような窓ふきとか、可能な限り家具をどけた掃除もやりたい。着ていたシャツの袖をまくって、目の前の課題に対して気合を入れた。

 なにかに没頭できる時間は好きだ。
 京子に呼び出されたときも、言いつけられた掃除をこなしている間は放っておいてくれた。季節に関係なくやらされる水拭きはそれなりに辛かったが、ずっと嫌味を聞かされ続けるよりも、手を動かしている方がよっぽど気楽だった。

「とりあえず今日は、キッチンまわりかな」

 途中で洗濯を干しながら、キッチンの掃除を進める。
 使われている様子はあるものの、ずいぶんと綺麗に保たれている。おそらく一矢さんも本命の女性も、綺麗好きなのだろう。
 ここへ私がずかずかと踏み込んでしまうのは気が引けてしまうが、禁止されなかったのを免罪符に作業を進めていく。

 ついでにどんな食材があるのか、食器はそろっているのかと確認もしていく。意外なことに、ペアのマグカップとか色違いの茶碗といったものはいっさい見当たらなかった。
 もしかして、私が来るのに合わせて処分させてしまったのかもしれない。
 申し訳なさから思わずズキリと胸が痛んだが、それでもこうして嫁いできてしまった以上自分にはどうしようもできないと、極力気にしないようにした。

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