冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 そうこうしているうちに、あっという間にお昼時になっていた。

 朝同様に簡単な食事を済ませると、一矢さんに持たされたカードを用意して外へ出る。
 スーパーの場所は事前に調べておいた。それが道順しかチェックしていなかった私は、お店に到着して思わず尻込みしてしまった。

「ここ、スーパーよね?」

 入り口を行き来しているのは、どう見ても私とは違う人たちばかりだ。
 洗練されたセットアップの洋服に身を包んだ、上品なご婦人。ヒールの高いパンプスに、清楚なワンピース姿の若い女性。
 彼女らの澄ました表情は、庶民じみた生活感など微塵も感じさせない。

 思わず自身を見下ろした。
 上はずいぶん前に量販店で購入した、飾り気のないカットソーを着てきた。下は季節に関係なく履いている細身のジーパン。これも量販店のものだ。足下にはずいぶん履きつぶした、黒いスニーカー。
 こんな装いで入ってもいいのだろうかと、思わず足を止めたまま呆然としていたが、今さら別のお店を探すのも大変そうで、勇気を出して踏み出した。

「高い……」

 客だけでなく、陳列されている商品も私の常識とはかけ離れていた。
 品質はよいとわかるが、それに比例してとにかく値段が高い。それに、時折見たこともないような食材まである。

「どうしよう」

 いつもなら安い食材を見つけてそれをもとに献立を考えていたのに、ここではそれが通用しそうにない。少しでも品数を減らして、それでも見栄えのするメニューをと必死に考えた。

 なんだか買い物ひとつでずいぶんと疲れてしまった。
 ようやく支払いを済ませると、逃げるように足早にマンションへ帰った。

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