冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚～不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます～
　それから一休みすると、時計を睨みながら次の行動を考えた。

　一矢さんはいつ帰宅するのだろうか？　そもそも帰ってくるのかもわからない。

　それは、私にとってかなり恐怖だった。

　疲れて帰宅したところで嫌っている私を目にしたら、彼はきっと気を悪くするに違いない。
　少しでも顔を合わせないようにするには、とにかくなんでもかんでも前を倒してやっておくしかない。

　時計の針は、間もなく十六時になると知らせている。夕飯を作り始めるにはまだ早いが、作っている最中に彼と遭遇してしまうのも申し訳ないと、さっさと調理に取りかかった。

　仕上がったものを冷蔵庫に入れると、自分の分を流し込むようにして食べた。
　食器を片付けて洗濯を片付けると、手早くシャワーを浴びて自身の部屋にこもる。その間中、いつ一矢さんが帰宅するかと妙な焦りがずっとついて回った。

　けれど、幸いにも今日は顔を合わせずに済んだようだ。もうそれだけで安堵してしまう。

　一矢さんはきっと悪い人ではないのだろう。だって彼は、こうして寝泊まりする場所を提供してくれたし、生活費に使うようにとカードまで持たせてくれた。
　ともすると、籍だけ入れて実家に放置しておくとか、実父のようにどこかにアパートを借りて住まわせることだってできたはずだ。

　でも彼はそうしなかった。
　初日から冷たくされても、どんなに突き放されようとも、それが彼のすべてだとは思えなかった。

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