冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「謝罪して欲しいわけじゃない。正直、食事の用意や洗濯の片付けは助かってるんだ」

 思わぬ言葉に、チラリと視線を上げた。
 すっかり呆れられているのかと思ったが、そうではなかったみたいだ。彼はなんとなく気まずげな表情をしている。

「こ、ここに住まわせていただいているので、せめて、私にできることはやろうと……」

 それが迷惑じゃないとわかって安心した。

「だが、仕事の都合で食べられないときもある」

「そ、それは、私が勝手に用意しているだけで……」

「いや。責めているわけじゃない。さっきも言ったように、仕事で手いっぱいのときに食事が用意されているのは助かっている」

 よかった。少しは恩を返せているようだ。

「食べられなかったものはどうしている?」

「お昼に、いただいています」

「無駄になっていないのならいい」

 早い時間だが、一矢さんはもう朝食を食べるようで、会話をしながら準備をしている。

「事前に予定がわかっていればいいが、突発的な呼び出しが多いし帰れなくなる日もある。せめて余裕のあるときは、これまでのように書いて知らせる」

「ありがとうございます」

「なにがだ?」

 一矢さんの私への配慮が嬉しくて、思わず感謝を伝えていた。

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