冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
『じゃあ、男としての一矢の幸せは? お前、ほかに女を囲うとか絶対できないタイプだろ』

 この男は、時折妙な言い回しをするものだ。そういうのは往々にして〝女としての幸せ〟だとか、女性が言うものじゃなかったか。
 それに、自分の幸せなど兄が後継ぎを放棄した時点で諦めている。

「俺は目の前で戦っている患者を助けられれば、それで十分だ」

 これが良吾を満足させられる答えでないと、わかってはいる。だが、今はこれでごまかされて欲しい。いろいろと言い返す気力など、この報告にさすがに萎えてしまったから。

『一矢……』

「ありがとな、良吾」

『何かあったら、絶対に俺に相談しろよ』

「頼りにしてる」

 この先の未来が明るいものではなさそうだと改めて感じ、思わずため息をこぼした。



 友人に励まされ、自身の中でも折り合いをつけて覚悟をして臨んだ結婚だったが、なにかがおかしい。

 遊び人だと聞いていたはずなのに、妻となった優からはそんな様子は微塵も感じられない。
 彼女はなぜだが常に怯えており、過剰に遠慮しているような雰囲気を感じてしまう。

 もしかして、嫁いできた初日にきつく言いすぎてしまったのだろうか。それとも今はまだ猫を被っているだけで、慣れたら本性を出すのだろうか。
 そう思って彼女の行動をしばらく見ていたが、疑問は深まり、ますます首を傾げるばかりだ。

 あれだけ冷たく突き放したというのに、食べるかどうかもわからない料理が必ず用意されている。しかも、彼女の手作りだ。噂を聞く限り、そんな健気な女性には思えなかっただけに驚いた。

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