冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「一矢は、優ちゃんのことを……」

「……ああ、好きだ」

 どんなに冷たくしても、けなげに尽くしてくれる女性をどうして嫌えるというのか。彼女が作ってくれた料理に、掃除、洗濯……そんな日常のすべてから、俺を労わってくれていると伝わってきた。それがたまらなく心地よくて、嬉しかった。

 それなのに遊び人だという過去がどうしても引っかかって、俺は彼女に対する自分の気持ちを認められないでいた。
 好きになってはいけない。愛してしまってもむなしいだけだ。そんなふうに歪んで捉えてきたせいで、彼女に対して中途半端な態度ばかり見せてきた。

 それでもどうしても気持ちは抑えられなかったようだ。ここのところ俺が帰宅しようとすると、看護師らから『もうお帰りですか?』などと言われる日が多かった。これまで休日返上で働き詰めだった俺が、残る素振りも見せずにさっさと帰宅する様子は意外だったのだろう。

 自身ですら気づいていなかったその変化は、今にして思えばただ単に、優のいるあのマンションに早く帰りたい一心だったと思う。優の料理が食べたい。なんなら、彼女が冷蔵庫に残してくれるメッセージを見るのですら楽しみにしていたのかもしれない。

「マンションで見た一矢の様子で気づいてた。だから優ちゃんには裏切って欲しくなくて、試すようなまねをした。あの場で俺に靡くようなら、さっさと離婚を促そうと思って……ごめん」

「なあ、良吾。俺は優に許してもらえるだろうか?」

 いつになく、気弱な発言をしている自覚はある。
 どれほど優を傷つけてしまっただろうか。彼女の許しを得る術がわからない。

「俺も、もう一度ちゃんと優ちゃんに謝りたい。一矢が許してもらえるまで、一緒に頭を下げるよ。なんなら、俺を悪者にしてもいいから。事実、優ちゃんに対して最初に疑惑の目を向けたのは俺なんだし」

 話が堂々巡りになってきた。ここでいくら良吾と話していても埒が明かない。
 今自分にできるのはなにか。今すぐ自分がとるべき行動を思案した。

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