若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 シャワールームからそのまま上がってきた上半身はだかのカナトを前に赤面しながら、マツリカはクローゼットの扉をひらく。キャリーバッグにある荷物だけで生活する分には問題なかったが、カナトは彼女のためにあれこれ手配してくれたらしい。

「なんですかこの量! 仕事で着るにしても多すぎます!」
「だが、恋人を着飾りたいと思うのは当然のことだろう?」
「限度というものを知ってください! 二ヶ月でこんな」
「三十着。毎日着ていれば足りなくなるから、状況に応じて買いたそう」
「三十着もあれば充分です! むしろすべてに袖を通す自信がありません」

 クローゼットのなかにはカナトがマツリカのために用意させたというワンピースやナイトドレスなどがずらりと並べられていた。豪華客船内にあるドレスコードが必要な店で食事を行う際に着用するようなディナードレスにチャイナドレス、ダンスに興じる際などにつかわれる華麗なドレスの数々を前に、マツリカは思わずため息をつく。

「……これも、恋人役として必要なこと?」
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