若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 おそるおそる使用人控え室から出てきたマツリカを見て、カナトはうん、と満足そうに頷く。
 昨晩慌てて手配したドレス類のなかから彼女が選んだリゾートワンピースは淡い青の濃淡が美しいデザインで、背の高い彼女によく似合っていた。ゆるやかに弧を描いた布の紋様と裾でひろがる流れるようなシルエットを見ると、まるで海にたゆたう波のようだ。

「こっちへおいで……よく似合っているよ」
「あ、ありがとうございます」

 恥ずかしそうに俯きながらカナトの前へ現れたマツリカはふふ、と花が綻ぶような笑みを浮かべる。

「制服じゃない服で船に乗るなんて、何年ぶりだろ……」
「ワイキキへはいつ到着予定だっけ」
「本日の昼には」
「じゃあ、それまでに俺たちが恋人同士らしくみえるように、練習しなくちゃいけないね」
「練習、ですか?」

 そこへベルの音が鳴り響き、ルームサービスが朝食を運んできた旨を伝えてきた。
 カナトは扉の前でワゴンを受け取り、部屋の奥にあるリビングまで運んでいく。
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