若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「バパとはハグと額にキスしたりしたけど、恋人同士のキスってそういうのじゃないよね……あたし、高校からアメリカで女子寮暮らししていたから、経験、がなくて」
「一度も?」
「――悪い?」
「いや」

 馬鹿正直に告げるマツリカが愛しくて、思わず握っていた指をはなして、カナトはそのまま彼女を抱き寄せていた。驚いて身体を硬くする彼女をぎゅっと抱きしめて「うれしい」と囁けば、「嘘ばっかり」と言い返されてしまう。

「そういう女のひとを喜ばせる言葉は、大切にしてください。コンシェルジュには不適切……っ!?」
「恋人なら、素直になりなさい。キスくらい、何度でも教えてあげるから」

 抱きしめられた状態でそのままソファに押し倒され、マツリカの意見は呆気なく彼の唇に塞がれてしまった。
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