若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 専属コンシェルジュとして呼ばれた娘がなぜ、制服ではない格好で若き海運王に随行しているのか。カナトの護衛や関係者たちの訝しげな視線をことごとく無視して、彼は満面の笑みをマツリカに向けている。特に説明はされていないが、この様子からして、恋人役としての任務はすでに始まっているとみていいのだろう。
 地上に降りた瞬間、彼らの視線から守るように抱き寄せられて、マツリカの鼓動がおおきく跳ねる。

 ――人前でほんものの恋人同士みたいなこと……最後までできるのかな。

「……マツリカ」
「なに」
「護衛と一緒で味気ないかもしれないけど、これはデートだから」

 わかっているよね? と確認させられて、マツリカはぽっと頬を赤らめる。

「はい」
「マツリカはハワイ、はじめて?」

 こくりと頷けば、カナトが嬉しそうに唇の端を持ち上げる。
 そして。

「じゃあ、とっておきの場所、俺がつれていってあげる」

 甘いキスとともに降ってきた言葉を前に、マツリカは呆然とする。
 その言葉、どこかで……?

 ――とっておきの場所、りいかが教えてあげる!
< 118 / 298 >

この作品をシェア

pagetop