若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 朝のひとときをキスの練習に費やされてしまったマツリカは、ようやく船が寄港したとの報せを受けて安堵の表情を見せる。不服そうなカナトも渋々彼女を解放し、ともに船を降りたのだった。

 ホノルルでの寄港時間は八時間。終日観光ではなく半日観光となるため、昼食を食べて周辺をまわるだけで船に戻らなくてはいけない。何度もハワイに来ている老夫婦などは下船せず、ハゴロモ内でのんびり過ごすようだ。今回のクルーズの目玉は南太平洋なので、ハワイはそれほど重要視されていないともいえよう。
 慌ただしいスケジュールになるとはいえ、それでも久々の陸地、観光名所というだけでマツリカの気分は上向きになる。

「カナトは、ハワイに行ったことあるの?」
「家族旅行で子どもの頃はよく連れていってもらっていたよ。大人になってからは親父と一回だけビジネスで来たことがある」
「そっか、お仕事」

 観光と仕事ではずいぶんと視点が変わるのだろうなとマツリカが頷けば、カナトもそうだね、と首肯する。
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