若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
《4》
――処女航海に、乾杯。
処女航海という言葉に驚きながら、マツリカはカナトが差し出したグラスに己のそれをおそるおそるふれさせる。たしかに、入社一年目で豪華客船の初クルージングともなれば、処女航海と呼んでもおかしくはないのだろう。なんだかこそばゆい気持ちになる。
カラン、と小気味良く鳴らされたグラスをたどたどしく口に運べば、フルーティーな香りが鼻腔をくすぐっていく。
ほのかに感じるアルコールに、マツリカはハッと我に却る。
「お酒っ!?」
「パイナップルのワインだよ。一杯くらいなら大丈夫だろ?」
「で、でもいまはまだ仕事ちゅ」
「俺のプライベートに付き合ってくれているんだから、問題ないよ」
「……はい」
カナトのグラスにも同じものが入っているのだろう、ふわりと甘い芳香が漂う。