若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
『タンカー・ビューのライトアップを見ておいで』
 父親の言葉を思い出したカナトは、その蛍が一斉に瞬きはじめたような幻想的な光景を前に圧倒される。なぜなら、このタンカーのなかには……

「お兄さんのお父さんの会社のタンカーも並んでいるんでしょう? Anak raja(アカ ラジャ) perkapalan(パカパラィ)――海運王の息子さん」

 父親が航海士だという彼女はカナトの正体が世界に羽ばたく海運王、鳥海正路(まさみち)の息子だと気づいたのだろう。マツリカが得意げに話す姿に、彼はくすくす笑い出す。

「それじゃあ、りぃかちゃんのお父さんが運転する船も入っているのかな」
「うん! 今度お仕事でギリシャに行くんだって!」
「……そうなんだ。お父さんと久しぶりの休暇を過ごしていたのに、なんだか悪かったね」
「ううん。ばぱが忙しいのはいつものことだから。それに、りぃかはお兄さんに助けてもらえて良かったよ?」
「お兄さんってのはなんだかこそばゆいよ。俺まだ十歳なんだから」
「そうなの!? ハイスクールの学生さんに見えた。泳ぎも上手だし」
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