若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「なんだとはなんだ。お前も俺に油売ってる暇があるのなら仕事しろ、仕事」
「わかってますよ。ただ、ひとつだけきかせてくださいよ。さっきからずっと手を握っている美しい女性は」
「よけいな詮索はするなと言っている」
「ひどいなあ。でも、まだ婚約前なら仕方ないですね。ハネムーンはぜこちらでどうぞ」
「気が早い……行くぞ、マツリカ」
「あ、はい」

 まんざらでもない表情を浮かべてカナトはマツリカの手を引いていく。
 ふたりを背後で見守っていたイッセーは「マツリカ」という名前に思わず瞳をまたたかせる。

 ――向こうは僕のこと気づいてないだろうけど、あれ、マイルん家の姉さんじゃ……? どういうことだ?

「どうかなさいましたか、イッセイ?」
「……プライベートかビジネスか、そこが問題だな。久々にマイルに連絡とってみるか」

 ホテル王の三男坊の独り言は、姿を消したカナトとマツリカには届かない。
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