若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 つまらなそうに義弟のはなしをするカナトを見て、マツリカは思わず冷や汗をかいてしまう。業界四位の鳥海海運を追い抜こうとしているライバル企業の社長の椅子に座ったかつての後輩は、実はマツリカの血の繋がらない弟で、あろうことかカナトが求めているマツリカを自分の妻にしたいと考えているのだから。恋人役とはいえ、カナトと異国でキスやハグをしていることは、義弟に知られたくないマツリカである。

「俺も調べるまでわからなかったよ。キャッスルシーの城崎清一郎には一人息子がいるだけだと、ずっと思っていたから」
「調べた?」
「マツリカは横須賀汽船の中谷真理香嬢のことは知っているか?」
「あ、はい。WBPのクルーズにも何度か来ていただいております。上品なお姉さんって感じがして好感が持てました。マツリカとマリカで似てるわねって意気投合して……」
「彼女が見合いの席で海上コンシェルジュのマツリカ・キザキを俺に教えてくれたんだよ」
「え……お見合い?」
「断られるのが前提のお見合いだよ。向こうにも婚約者がいるのに、親父が……いや、いまはそれよりも貴女のことだ」
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