若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 そう言ってマツリカをふたたび座らせ、カナトが手ずからスプーンでロブスターのビスク……クリームベースのスープを彼女の口元へ運ぶ。ふー、ふー、と息を吹きかけて、温度を確かめた彼は、「ほら、口あけて」と頑ななマツリカにビスクを飲ませようとする。恥ずかしくて、首を振って拒む彼女に何を思ったのか、「じゃあ俺がもらうよ?」とスプーンの中身を口に含んだ状態で、マツリカの唇を奪う。そのまま流れ込む芳醇なロブスターのビスクを、彼女はこくりと飲み込んで目を白黒させる。いま、口移しされた!?
 つぅっと口の端から溢れるビスクの雫までぺろりと舐められて、その艶っぽいしぐさにマツリカは凍りつく。なにこの色気、反則……

「っ!?」
「ほら、美味いだろ?」

 にやりと勝ち誇った笑みを見せるカナトは、紅潮するマツリカの前でふたたびロブスターのビスクをスプーンで掬って、彼女の口元に寄せる。

「俺からの口移しと、どっちがいい?」
「っ、ひとりで、たべる!」

 これ以上甲斐甲斐しくカナトの世話になるわけにはいかないとあたまのなかで警鐘を鳴らしたマツリカは、彼の手からスプーンを奪取し、しぶしぶロブスターのビスクと対峙するのだった。
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