若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 海の色がどこまでも蒼く、空の碧とひとつになって壮大な景色を魅せつける。アメリカ領サモアを経た後、明日にも日付変更線を通過する。その後もフィジー、ニュージーランド、オーストラリアへと楽園の旅がつづていくのだ。

「次の寄港地はニュージーランドか」
「はい。アイランズ港に入ってから約一週間の滞在予定です」
「この旅の中間地点になるんだな」
「そうですね」

 本来ならコンシェルジュであるマツリカはこのプレミアムスイートルームでのんびりアフタヌーンティーを飲んでいる場合ではないのだが、カナトの専属コンシェルジュ兼恋人役となったため、これも仕事として給与が発生している。日中に室内で仕事をしている彼の傍に控える姿は恋人というよりもまるで個人秘書のようだとボディガードの瀬尾と尾田、お目付け役の伊瀬にさえ言われている。恋人同士になりたいカナトとしては複雑な心境である。
 だが、これ以上彼女を追い詰めて使用人控え室に引きこもらせるわけにもいかない。逃げられてしまっては元も子もないからだ。
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