若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 だからカナトもビジネスライクにマツリカと接することが増えた。その方が彼女が安心するとわかったからだ……本意ではないけれど。

「寄港しているあいだ、コンシェルジュは何をしているんだ」
「引き続きレセプションデスクでお客様へ現地の観光案内をしたり、船内に残られたお客様へアクティビティを用意したり、物資の整理を手伝ったり……船内のなんでも屋なので、基本的に船のなかで過ごします」

 休憩時に散歩がてら寄港地を観光することもあるが、それよりも睡眠時間を優先してしまうことの方が多い。とはいえ今回は長期の滞在になるためほかのコンシェルジュも外に出て観光気分を味わうことができるだろう。

「そうか。じゃあ、ニュージーランドに着いたら一緒に観光しような」
「……はい」

 戸惑う表情を見せながらも、彼女は素直に頷いてくれる。俯いたマツリカの顎を掬ってひょいとキスすれば、顔を真っ赤にしながら瞳をとじて、彼のやりたいように従ってくれる。
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