若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 ぺろりと舌先で彼女の上唇を舐めれば、アフタヌーンティーのおともに用意されたチョコチップスコーンのホイップクリームの味がした。このまま貪りたくなるほどに、彼女の唇は甘くてカナトを欲情させる。でも、これ以上のことはできないと彼女は瞳を潤ませながら首を振る。彼女が怖がること、嫌だということを無理に遂げることもできるだろうが、そうしたところで彼女は自分にたいしてさらに頑なな態度になるだけだ。

 ――心を手にいれてから、すべてを手にいれる。このクルーズが終わるまでに必ず。

 いまはそれだけで充分だと、カナトは自分の欲望にそうっと蓋をする。
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