若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 ふたりがカナトの身辺警護を行うようになったのは彼が鳥海海運の陸上職に就いたときからだという。子どもの頃からお目付け役として傍にいる伊瀬と違い、彼らは十五年前のカナトのことを知らない。

「伊瀬さんなら知っているかもしれませんよ」
「ありがとうございます……心にとどめておきます」

 十五年前から、というカナトの言葉がはなれない。
 どうやら父親が死ぬ前に、シンガポールで暮らしていた自分とカナトのあいだで何かがあったらしい。マツリカは父親のことだけでなく、自分が忘れているであろうその十五年前の記憶についても思い出したいと考えるようになっていた。
 遠くを見つめていたマツリカがふと顔を横に向けると、ちいさな男の子が笑いかけてきた。

「あのときの姐姐(おねーちゃん)!」
「……浩宇(ハオ・ユー)?」

 それは、鳥海グループが貸切にしているハゴロモの最上階で迷子になって、マツリカを呼び寄せカナトに見初められる元凶になった浩宇少年だった。
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