若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 だが、カナトの初恋は前途多難だった。現地法人に所属していると思われた一等航海士のナガタニという人間は、カナトがマツリカを見初めた翌年に消息がわからなくなってしまったのだ。ヨーロッパで起きたケミカルタンカー事故に関連しているとのはなしだったが、当時未成年のカナトが詳細な情報を手に入れることはできなかった。大人になったカナトが直接調べようにも、すでに事故として処理された案件は過去の鳥海運輸の汚点として封されていた。ナガタニという名の航海士は死んだものとして扱われており、その娘がどうなったのか知ることも叶わない。
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