若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「カナト……?」

 ――俺だけのフェスティバル・フラワー。

 どこか懐かしさを思い起こす彼の呼び掛けに、マツリカの心が早鐘を打つ。
 バパが教えてくれた、祭祀の花(フェスティバル・フラワー)、マリカー。それはサンスクリット語で――を意味する……
 何かを思い出せそうで、思い出せない。
 いや、それよりも。どうしてカナトがバパの言っていたことを知っているの?

 何も言わない彼を怪訝に思いながら、彼の顔色をうかがえば、カナトはすやすやと満足そうに寝息を立てている。もしかしたらカナトも疲れているのかもしれない。明日もオークランドにある「とっておきの場所」に連れていってくれると言っていたし。そのときに訊ねてもいいだろう。
 ふわぁとあくびをしたマツリカは、敷布をかけながらいまだけの恋人にやさしく囁く。

「カナト……おやすみなさい」
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