若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 翌日も絶好の観光日和だった。
 十一月のニュージーランドは秋から冬へと向かう日本とは異なり、春から夏へと向かっている。過ごしやすい気候もあって、ハゴロモの乗客たちも自由行動というだけあってあちこちに散らばっていた。
 そのなかでマツリカはカナトに案内され、「とっておきの場所」を共有している。

「桜……?」

 オークランドにあるフォーガンシャン寺院。仏教寺院としてはニュージーランド最大の寺院というだけあって、おおきな仏像が奥に安置されていた。ふわりと漂う線香の香りが郷愁を誘う。
 カナトによるとここは中国台湾仏教における寺院なのだという。整えられた立派な庭園を散策していれば、いたるところでいまが見頃の八重桜がふたりを迎えてくれる。

「街路樹として植えられている桜は台湾桜が多いけど、この寺院の桜は日本の八重桜なんだ。間に合ってよかった」
「すごいね、八重桜の並木道……」
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