若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「家内と一緒に別行動をしているよ。息子は仏像よりも動物を見たがっていたからね。それよりも直接顔を会わせるのははじめましてになるかな、鳥海の若き海運王くん」
「あ、あなたは長緑光(グリーンライツ)の……!?」

 ふふ、と笑う王氏はカナトにも理解できるよう英語で応じている。彼の正体に気づいたカナトが慌てて礼をしようとすれば、王氏に「堅苦しいことは抜きだよ」と笑われる。
 グリーンライツ、という企業名はマツリカでも耳にしたことのある台湾有数の製造製鉄企業だ。たしかアメリカと日本にも法人があったはず。彼は鳥海の海運王――カナトの父と面識があったらしい。

「てっきり正路さんが来るものだと思っていたのに、息子の方が来るとは意外だったよ。まぁ、事情は君の護衛から聞かせてもらったけど」
「申し訳ございません」

 妙にしおらしい尾田の姿に、カナトがはぁとため息をつく。

「尾田が親父の手のものだってのは知ってたけど、王氏とも接点があったとはね……」
「えっっ?」
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