若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
《5》
「知ってますよ。尾田はもともと台湾マフィアの一員でしたから。王氏が彼を拾ったのを面白がった正路さまが引き取ったんですよ」
「そうだったのか」
「カナトさまとマツリカさまが仲良くしているのを王氏は内心で面白くないと思っているんでしょうね」
伊瀬のひとことに、カナトが目をまるくする。王氏はマツリカをカナトの専属コンシェルジュとして見ていたが、恋人同士のように過ごしているのを目撃したことで何か察したきらいがある。初恋のはなしを持ち出したのはマツリカがカナトの唯一の相手だと確認したかったからだと思うのだが、そのことを伊瀬に伝えたところで彼は素直に頷きそうにない。
「だ、だからといってわざわざ俺とマツリカをはなればなれにしてはなすことか?」
「言いましたよね。あまり彼女に入れこまないでくださいって」
「言ったか?」
「クルーズのあいだはおふたりを見守ると言いましたが、クルーズが終わったら彼女は他人に戻るんですよ」
「そんなことさせない。彼女は俺の永遠の恋人になるんだ」