若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 初恋を弄ばれたような気分になったカナトは、信じられないと伊瀬の言葉を待つ。

「妻子のその後についてですが、城崎清一郎の後妻と義理の娘におさまってからは鳥海側は彼らと接触をとっておりません。なのでナガタニの娘がアメリカ法人の子会社で船上コンシェルジュになっていたことはわたくしも存じませんでした……仕事柄同じ港で顔をあわせるくらいはあったでしょうが正路さまが孫会社のコンシェルジュを気にかけることもなかったでしょうし」

 そういえばマツリカは義理の父親についてカナトにはなしていない。自分の父親とライバル関係にあったことから話題を避けているのだろうか。カナトがマツリカを欲していることを知ったら、キザキはどのような反応をするのだろう。会社を引き継いだ義弟の動向も探る必要があるだろう。彼が有能な義姉を自分の会社に呼び戻す可能性も高いだろうから。
 だが、カナトはマツリカが死んだ父親についての真相に納得し、自分との初恋の記憶を思い出してくれたなら、彼女を花嫁に迎えたいと決意しているのだ。クルーズのあいだの恋人契約を結ばせたそのときから。
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