若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
いまさら彼女と他人に戻るなど、考えたくもない。
カナトはあえて明るく伊瀬に告げる。これは会社の問題でもなんでもない、自分と父親の根本的なすれ違いだと。
「親父は俺がナガタニの娘を求めていることを知っていながらほかの女性をけしかけている。それは彼女に対して後ろめたい感情があるからだったんだな――ならば、俺から彼女へすべてをはなして、許しを乞えばいい。それだけのことじゃないか」
「そこまで決意が堅いのでしたら、カナトさまにこちらをお渡ししておきます」
「これは……?」
「ナガタニの形見の品になります。十五年前、彼からお預かりしました」
シンガポールで託された指輪は、本来カナトに渡されるものだったという。溺れたマツリカを救ってくれたお礼として持っていてほしいと。彼女の瞳の色を彷彿させるお守りの石がついているのだと。だがそれは十歳の少年に持たせるにはあまりにも高価すぎる品物だった。
そのため伊瀬は自分が仕える若き海運王が社長になるその日まで預かっているつもりでいたのだ。初恋を諦めて、大人になるその日まで……彼を惑わせるであろう初恋の女性の父親の形見を。
カナトはあえて明るく伊瀬に告げる。これは会社の問題でもなんでもない、自分と父親の根本的なすれ違いだと。
「親父は俺がナガタニの娘を求めていることを知っていながらほかの女性をけしかけている。それは彼女に対して後ろめたい感情があるからだったんだな――ならば、俺から彼女へすべてをはなして、許しを乞えばいい。それだけのことじゃないか」
「そこまで決意が堅いのでしたら、カナトさまにこちらをお渡ししておきます」
「これは……?」
「ナガタニの形見の品になります。十五年前、彼からお預かりしました」
シンガポールで託された指輪は、本来カナトに渡されるものだったという。溺れたマツリカを救ってくれたお礼として持っていてほしいと。彼女の瞳の色を彷彿させるお守りの石がついているのだと。だがそれは十歳の少年に持たせるにはあまりにも高価すぎる品物だった。
そのため伊瀬は自分が仕える若き海運王が社長になるその日まで預かっているつもりでいたのだ。初恋を諦めて、大人になるその日まで……彼を惑わせるであろう初恋の女性の父親の形見を。