若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
chapter,5 Australia

《1》


 ――マイくんが婚約発表を控えている? そんなの、初耳なんだけど!?

 グリーンライツの王氏がいうには、キャッスルシーの新社長はずいぶんなやり手で、鳥海の若き海運王を追い落とす勢いで近隣諸国の主要企業との連携を強めようとしているという。自国での経営を優先していた城崎清一郎のやり方を踏襲するものと思われていた二代目、城崎浬の攻めの姿勢は、世界の投資家たちをも巻き込み、新たな勢力として目がはなせないのだと王夫人が興奮しながら説明してくれた。
 たしかにマイルは海外進出を計画していたが、すでに実行に移しているとは思いもしなかったマツリカである。そのうえ、婚約発表? お相手はどこの誰? ハロウィンの前に電話したときはそんなことひとことも言ってくれなかったのに……いや、それより噂ですよね、とあたふたするマツリカを見て、夫人は満足そうに笑う。

「ふふ。東京に戻ったらサプライズが待っているのかしらね」

 そういって王夫人と別れたマツリカは、ひとつの可能性にいたって戦慄する。

 ――マイくんは、東京に戻ってきたあたしを無理矢理婚約者にして、既成事実をつくるつもりだ!
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