若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 同時にもう片方の手がすでに甘い蜜を垂らしているそこへ指先を押し込んでいた。感じたことのない異物感と得体の知れない感触に、マツリカはいやいやと首を振る。

「やだ。こわい……こわいよカナト」
「このあいだはここを俺がたくさんキスしてあげたじゃないか。気持ち良さそうにしていたのに、指だと怖いの?」

 だって、指はマツリカですら知らない場所を探るように花園を探っている。なかを弄られたことがなかった彼女はこの先で彼の欲望を受け入れなくてはいけない現実を前に悲鳴をあげていた。
 こわいよ、と涙ながらに頷くマツリカを見て、カナトはハッと我に却る。そして慌てて彼女を抱きしめる。無防備な彼女を憤りだけで壊しそうになっていた自分自身を律しながら、慈愛に満ちた声音で。

「――ごめん」
「カナト?」
< 206 / 298 >

この作品をシェア

pagetop