若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
嵐のような彼の行為が中断されて、マツリカがきょとんとした表情を見せる。さきほどまで怖いと泣いていたのに、カナトが素直にやめてくれたことに安心したのか、おそるおそる自分から両腕を彼の背中にまわす。ぎゅっと抱きしめて、マツリカが彼の名を呼べば、彼もマツリカの名前を唇に乗せる。
「マツリカ、マリカー、マツリーカ……はじめて貴女に逢ったとき、俺は十歳だった。貴女の父親が、マリカーと呼んでいたからてっきりマリカという名前なんだと思っていたんだ」
「十五年前?」
「そうだよ。夏のおわり、シンガポールで」
この船はシンガポールに向かっているわけではない。
けれど、南太平洋クルーズはシンガポールに近い気候を持つ観光都市を巡りつづけていた。もしかしたらこの先の観光を通してマツリカが自分との出逢いを思い出すきっかけになるかもしれない。
すでにオーストラリアのシドニーまで到達していたハゴロモはタスマニアを抜けている。明日にはオーストラリア第二の都市メルボルンに寄港する予定だが、その後はインド洋クルージングとなり、クリスマス直前のインドネシアまでノンストップだ。
「マツリカ、マリカー、マツリーカ……はじめて貴女に逢ったとき、俺は十歳だった。貴女の父親が、マリカーと呼んでいたからてっきりマリカという名前なんだと思っていたんだ」
「十五年前?」
「そうだよ。夏のおわり、シンガポールで」
この船はシンガポールに向かっているわけではない。
けれど、南太平洋クルーズはシンガポールに近い気候を持つ観光都市を巡りつづけていた。もしかしたらこの先の観光を通してマツリカが自分との出逢いを思い出すきっかけになるかもしれない。
すでにオーストラリアのシドニーまで到達していたハゴロモはタスマニアを抜けている。明日にはオーストラリア第二の都市メルボルンに寄港する予定だが、その後はインド洋クルージングとなり、クリスマス直前のインドネシアまでノンストップだ。