若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
《2》
起きているのにカナトは夢を見ていた。白い花柄の水着を着ていた幼い少女の白昼夢を。
思い出すのは夕暮れが近い晩夏のシンガポールの風景。寄せては返す波のなかで愛するひとへ手を振って、奥へと進んでいく少女。太陽のひかりに反射する髪は黄金色に煌めいている。透明度がない海の水を恐れることなく泳ぐ姿はまるで人魚のよう。ふいにこちらを向いて、声をかけてくる。
――青みがかった黒の瞳はまるでラピスラズリのように今日もうつくしい。
その瞬間、海の幻影はかき消え、カナトの目の前に現実が戻ってくる。
ハゴロモのプレミアムスイートルームで待っていた彼のもとに、使用人控え室から着替えて出てきたマツリカの姿とともに。
「……着替えてみたけど」