若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

chapter,1 New York

《1》

「How was your 10-day cruise on New York?　Thank you for using……」
（ご乗船ありがとうございました、ニューヨーク十日間のクルーズはいかがだったでしょうか？）

　アメリカのニューヨークといえば、経済をはじめ政治や文化、ファッションにいたるまで世界に多大な影響を与え続けている屈指の大都市である。金融都市としての厳めしい顔を持つ一方で複合メディア企業が立ち並ぶエンターテイメントの街でもある。
　ハドソン川と大西洋の接点にあるこの都市には五つの行政区(ボロー)があり、そのうちの四つは島になっている。そのためニューヨークは水に囲まれた街ともいわれている。
　エンパイアステートビルをはじめとする超高層ビル群にネオンが煌めくタイムズスクエア、世界遺産にも登録されている自由の女神像などの観光名所が数えきれないほど存在している。
　その、世界有数の観光都市といわれるニューヨークで、日本の若き海運王と呼ばれる鳥海叶途の初恋の相手である女性――城崎(きざき)祭花は船上コンシェルジュとして働いていた。