若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「キザキお疲れ。COOから伝言。戻ったら本社会議室にも寄るように、だって」
「了解です先輩。このまま向かわせていただきます!」

 ふだんは主に日本からやって来た観光客を相手に、マンハッタン島をはじめとしたニューヨーク周辺の日帰りクルージングを担当している彼女だったが、さいきんは長時間クルーズの方がメインと化している。
 ニューヨーク発サウサンプトン着アメリカ大西洋横断ツアー、九泊十日の旅から戻り、本社に呼び出された彼女は疲れた顔ひとつ見せずにパンツスーツ姿でニューヨークの高層ビル群に飛び込んだ。
 明るい茶色がかった髪は高く結い上げられライムグリーンのバレッタで留められ、アッシュグレイの上質なパンツスーツに華を添えている。日本人にしては高めの鼻梁と青みがかった黒い瞳は、遺伝子上の父親の母親がヨーロッパ出身だったからだと言われている。顔立ちだけでなく身長も平均より高く、ヒールが低めのパンプスを履いているにもかかわらず存在感があり、すれ違うひとがその凛とした美しさに圧倒されるほどだが、本人はたいして気にしていない。

「本社呼び出しだなんて、今度はなんなのよ……」
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