若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「マツリカ。俺は父親みたいにはならない。俺は貴女をけして手放さないよ。仕事のときもともに海のうえにいてほしいし、陸でも常に一緒にいたい」
「でも」
「母に逢ってほしい。彼女だけだって伝えたいんだ。俺が真実、結婚したいと想いつづけている女性は」

 真剣な表情に気圧されて、マツリカはなにも言えなくなる。
 やがて彼は彼女の左手の薬指の爪先にキスをして、名残惜しそうに顔を背けた。
 気まずい沈黙が、互いのタイムリミットを示しているかのようだった。
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