若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
chapter,6 Pulau Bali
《1》
十二月二十三日早朝。豪華客船ハゴロモはインド洋クルージングをつづけながら、次の土地へと海原を走っていた。
次の目的地は東南アジアのインドネシア共和国バリ州に属する島、バリ島だ。
世界有数の観光地として知られているこの島は、毎日どこかで祭りが行われていることでも有名だが、最近ではバリ独自の祭祀に限らずクリスマスやニューイヤーを祝うことも当たり前になっている。
「外国人が訪れるシーズンってどうしても夏休みとか年末年始のお正月休みになるからね。常夏の国バリでもクリスマスや年越しを過ごす観光客を喜ばせようとホテルやレストランではクリスマスツリーやニューイヤーの飾りをあちこちに出しているんだよ」
「すっごく小さい頃に家族で連れていってもらったけど、記憶に残ってないなぁ……」
残念そうに呟くマツリカの髪を撫でながら、カナトは寄港後の予定を彼女に語り出す。
「プライベート・ヴィラ?」
「そう。二十三日の夜から二十五日の朝まで。たまには船のうえじゃなくて、陸地でふたりきりの夜を過ごさないか?」