若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 エスニックな香りがどことなく漂う神秘の島、バリ。
 夕刻、ハゴロモを降りたふたりは瀬尾の運転する車でカナトが手配したというプライベート・ヴィラへ向かった。市街地からはなれた村に点在している観光客向けの施設はまさに隠れ家のようだが、建物のなかへ一歩入ったとたん、そこが特別な空間であることを知らされる。

「わっ」
「緑色のビール瓶で作ったクリスマスツリーか。南国らしくていいな」
「そういえば車から見えたクリスマスツリーも木の枝を使ったものや椰子の木に飾りをつけたものがあったね」
「海からの流木や自生している椰子の木をクリスマスツリーに見立てているんだな」
「見ているだけで楽しくなっちゃった」

 ふふ、と楽しそうにツリーを見つめるマツリカは、天井に吊り下げられている星のかたちの飾りを見上げてぽかんとする。照明をあびて金や銀にキラキラと煌めく星形のオーナメントは木でつくられたヴィラをツリーのように飾っていた。

「天井にも飾りがある!」
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