若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「ホテルのエントランスだとシャンデリアのようなクリスマス飾りがお出迎えするところもあるから、それに負けないようにお願いしておいたんだ」
「わざわざカナトが準備させたの?」
「クリスマスをすきな女性とふたりで過ごしたいと伝えたから……」

 恥ずかしそうに口をひらくカナトに、マツリカは苦笑する。
 タイムリミットは近づいているのに、肝心なことはなにも進んでいない。結婚してほしいと求めるカナトに応えたい気持ちはあれど、死んだ父親を裏切りそうで怖い気持ちを前に、マツリカは身動きがとれないままだ。
 カナトはマツリカがいやがることはけしてしない。結婚のはなしも、マツリカが是というまで待って、カラダの関係も最後まではしないでいるのだから。
 それでもクリスマスに異国の地でふたりきり。特別な夜となると、胸が高鳴るのも仕方がないと思う。マツリカはこのままカナトに絆されて雰囲気に流される予感に期待とわずかな危機感を抱いていた。
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