若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 点在するヴィラはひとつの場所でしっかりと管理されており、料理はそこから運ばれてくる。現地のシェフがその日に手に入った食材で調理するため、決まったメニューは存在していないというが、客のリクエストには律儀に応えてくれるのだという。チキンかシーフードをつかった料理になりそうだね、とふたりで明日の献立を予測しながら、穏やかな夜を迎える。

「今夜はここで寝るの? ベッドがひとつだけだけど」
「ハゴロモでは一緒のベッドで何度も寝ているじゃないか」
「あそこのベッドはキングサイズじゃない」

 豪華客船ハゴロモのプライベートスイートルームにあるベッドは家族で寝てもスペースがありあまるほどのキングサイズだが、このヴィラにあるベッドはかろうじておとなふたりが横になれる程度の、こぢんまりとしたものだ。どちらかといえばソファに近いかもしれない。
 けれど、清潔なベッドには真っ白なシーツがかけられ、そのうえには色とりどりの花が散らされている。真っ赤なバラに、象牙色と淡黄色のちいさな木蓮のような花、黄色いイランイランと純白のジャスミン……

 ――なんだか、新婚旅行の初夜みたい、な……?
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