若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 その結果、バードパールワールド社(通称BPW社)正規職員として雇われたばかりの新人だというのに、得意の語学力で社内の女性が憧れる豪華客船クルーズの添乗員の座を易々と手にいれてしまった。本人は陸上職の事務員で充分だと思っていたのに周囲が放っておいてくれなかったのである。
 その異例の大抜擢は一時的に社内をざわつかせたが、実力主義のアメリカ社会ではよくあることとしてあっけなく受け入れられた。むしろマツリカ本人がいちばん不安で仕方がない。

 ――だってあたしの武器は語学力だけだよ。外見はあくまでオマケでしかないの。

 マツリカにとって会ったこともない祖母譲りの外見は、独特な名前もあいまって日本にいた頃にたいそうイジられ、コンプレックスになっていた。両親は日本人だと言っても誤解する人間が多いのは仕方がないとはいえ、どこか閉塞的な日本での生活はマツリカには性に合わなかった。海外の学校に進学してそのまま就職しようと思ったのも思春期の頃に味わった孤独から抜け出したかったからだ。
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