若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

《2》


 オーストラリアを発って以来、カナトと必要以上に一緒にいることを避けていたマツリカは航海中に彼が何をしていたか知らなかった。仕事の書類と格闘しているものだと思っていたのに、どうやら彼はそれだけではなく、マツリカ個人についても独自に調査をしていたらしい。

「どうすれば俺の求婚を受け入れてくれるのか、ずっと悩んでいた。そこでナガタニが生前所属していた鳥海のシンガポール現地法人に過去から現代までを洗わせたんだ」
「バパのことを?」
「シンガポールで俺たちが出逢ったとき、伊瀬は貴女の父親とふたりきりで会話をしている。この指輪は、海で溺れた娘を助けてくれたお礼にと、彼が渡してくれたものだ」
「……えっ」
「あのとき俺は十歳だったから、伊瀬は大人になるまで預かっていたんだ。このおおきさのサファイアだと時価二十万くらいが妥当かな」
「ひぃ」

 なんてものを父親は渡しているんだ、と顔色を変えるマツリカを面白がりながら、カナトはつづける。
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