若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 カナトの情熱的な求婚に、マツリカはぽろりと涙をこぼしていた。
 死んだ父親のことを知りたいという彼女の願いをクルーズのあいだに解き明かし、遺品となるサファイアの指輪から自分の名前の真実まで教えてくれたカナト。
 専属コンシェルジュなんて恋人のふり、クルーズが終わるまでの女避け……そう言い訳していたのに、いつのまにか惹かれてしまった。だって彼には初恋のひとがいて、年明けの東京で待っていると思っていたのに、彼が求めていた初恋の女性はまさかの自分のことだったのだから。
 死んだ父親に申し訳ないから結婚には応じられないと頑なになっていた自分を、必死になって求愛しつづけてくれたカナト。神々の島バリで、ふたりきりのクリスマスイブを迎える前夜に、思い余ってプロポーズしてしまった彼に、マツリカは泣き笑いの表情を浮かべる。

「……こんなことされたら、もう、拒めないよぉ」

 首肯する彼女を見て、カナトは嬉しそうにあたまを屈める。
 そしてそのまま、蕩けるようなやさしい、キスをした。
< 246 / 298 >

この作品をシェア

pagetop