若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 ――朝になれば船は沖縄を離れて、奄美諸島をまわった後にいよいよ終着地に向けての東京湾クルーズがはじまる。残された時間もあとわずか……

 ふいに音が途切れる。
 え、と顔をあげたマツリカの目の前に、カナトの顔が迫っていた。
 ふわりと唇が重なる。

「ンっ……」
「悲しそうな顔しないで。年が明けても、このクルーズが終わっても、俺は貴女を手放したりしないから」
「カナト」
「何があっても起こっても。俺は貴女を――……」

 汽笛が鳴る。
 一年が終わり、新たな年が明ける。
 ピアノが一台だけある誰もいない場所で、ふたり。

「カナト。今年もよろしくね」
「今年だけじゃないよ、一生よろしく」
「ん」

 抱き合った状態で、誓いのキスをした。
< 257 / 298 >

この作品をシェア

pagetop