若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
《2》
年が明けてーー
幸せすぎる年越しを過ごしたマツリカはハゴロモが終着地である東京、晴海ふ頭に船が帰着したのを受けて大慌てで荷造りをしていた。
年明けに豪華客船ハゴロモが約三か月間のクルーズから戻って来るとあって、客船ターミナルには出迎えの人だかりができている。
東京港周辺で国内外の豪華客船が接岸するのはこの晴海ふ頭だけで、歴史のある日の出ふ頭や品川ふ頭などは貨物やコンテナ船を扱っていることで知られている。世界一周旅行クラスの豪華客船は横浜港や神戸港を発着地にすることが多いが、『飛翔Ⅱ』よりも総重量が軽く乗客乗組員数が少ないハゴロモは東京港が開港して五十周年を記念して誕生した晴海ふ頭を海の玄関にしているのだ。
「俺は一般客が降りてから、最後にこっそり下船するから……あとで連絡する」
「ん」