若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 久々にレセプションデスクに戻ったマツリカを迎えてくれたのはミユキをはじめ好奇心旺盛なコンシェルジュたちだった。

「若き海運王との南太平洋クルーズ、お疲れ様。思った通り最後まで手放してくれなかったわね」
「お疲れ様ですミユキ先輩……事情は上司におはなししたとおりなので」

 しどろもどろになるマツリカを「かわいい」と茶化しながらミユキは彼女をスタッフルームへ連れていく。

「大変だったわね。荷物はこのままここに置いておいていいわよ。乗客の下船はもう終わってるから、わたしたちの仕事もあとは忘れ物がないかの確認くらいかしらね。一階のセントラルパークとモール周辺を……」
「あ、あたし行きます!」

 先輩の言葉を遮りスタッフルームから飛び出していったマツリカを前に、ミユキは苦笑する。

「……はなしは最後までききなさいよ。あ、瀬尾さんでしたっけ。ちゃんと彼女見ててくださいね。鳥海の若き海運王に見初められた幸運なコンシェルジュを妬む敵は、ハゴロモにもいるんですから」
「む」

 マツリカを追いかけようとしたところでミユキに声をかけられた瀬尾は、わかっていると無表情で頷き、大柄な身体を揺らしながら彼女を追いかけていく。
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